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第一章 「ベトナム帰りのハスラー」 

ツエ村から 「ベトナム帰りのハスラー」 上田 隆
    
 1979年の暮れ、インドの南、モルディブに着いた。ノービザで来たが空港でポンとビザ印を押された。滞在期間制限はなし。金の続く限り「どうぞ」の国だ。半年のインドビザが切れ、再入国許可は六ヶ月先。モルディブは物価が安く、インド再上陸をねらう旅人にとっては絶好のしのぎ場所なのだ。3000もある島々はすべてサンゴ礁からなる。絵になる新しい南洋リゾートとしてヨーロッパ資本が目をつけたので開発が始まっていた。快適なリゾート島は白砂にヤシの木、そして島を大きく取り囲むリーフはダイバーズ天国なのだ。しかし、一泊二、三十ドルもするので縁は無い。私は首都のあるマーレー島に格安の間貸しを見つけた。小さい庭だが熱帯の緑がたっぷりで居心地はよさそう。私以外は五人のスイス人。兵役逃れで来ているそうだ。金持ちの息子たちだろう。夜遅くにアメリカ人のジニーが帰ってきた。軒下のハンモックに潜り込み、星条旗を巻いて寝た。
 

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第二章 「コイコイ イン モルディブ」 

ツエ村から 「コイコイ イン モルディブ」 上田 隆
 雨季が明けない。例年ならとっくに終わっているそうだ。南洋なのに空は灰色で海の色は暗い。することがない。逆に言えば絶好のギャンブル日和。バックギャモンのお返しに、私は持っていた花札でジニーにコイコイを教えた。花合わせは家庭おアソビだがコイコイは二人でやるばくちだ。人生は相手の手の内を読まなくても神様か何かに守られて生きる人もいるが、ばくちに読みは不可欠、いや一番大事と言ってもいいだろう。
花札を見せるや、ジニーは目を輝かせた。
「ファンタスティック」 東洋エキゾティシズム、初めて見る絵柄が相当気に入ったようだ。二十、十、五、一、各点札の分類と花の分類を一度で覚えたので私は舌を巻いた。ルールを教えた。二十点札は三枚、十、五点札は各五枚、一点札は十枚、集めれば一文できあがりとなり、それ以降は加算枚数が文数増加になる。文ができたり、増えた時点でコイコイと叫び、次の文の追加で文数の二倍となる。つまり文数×【コイコイ宣言数】で二倍、四倍、八倍・・・ギャンブル性の高いルールだ。ただし、コイコイ宣言後、次の文ができるまでに相手が一文でも作ると負け。自分の文数はご破算になる。

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第三章 「セイリング」 

ツエ村から    「セイリング」 上田隆

 オレたちのドニーを受けとるために係留してある島へ向かった。そう、ジニーは勝負をものにしたんだ。勝った勝負なのにワンチャンスを相手にやる・・・勝負の女神の逆鱗に触れたわけだ。負けたことを解っていないにせよジニーは絶体絶命と感じていた。危ういところをくぐり抜けたのでジニーは波に乗り、女神も味方についた。私もそれ以降は決して手を抜いたわけでは無いが一方的に押し切られた。笑うほど一方的に。
「わかった、わかった、女神さん。勝負の世界にアンタがいること、信じるよ。しかしアンタもきついねー、こんなキツイ女は人間にはいないよ」
一度怒らせた女神の酷薄さをこの時は分からなかったが後々で思い知らされることになる。
クルーはジニー・マサ・私・ギリシャ人のディミトリオス、彼は一人乗りヨットでモルディブにやってきた。そしてモルディブ人船頭のジャミール。ジャミールは貸し部屋の大家であるドン・ツツの紹介だ。ドン・ツツは愛嬌のある笑顔で言った。
「ジャミールはドロボーで捕まったので仕事が無い。気をつけろ、もっとも船の上では何もできんだろうが」

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第四章 「夕陽のドニー」 

ツエ村から   「夕陽のドニー」    上田 隆
 翌朝早くに島をはなれて祝杯をあげるためにリゾート島に着いた。モルディブは回教国なのでアルコールはご法度だが観光リゾート島は例外。半年ぶりの冷えたビールは高くてもうまかった。ジニーが滞在客と話をつけてきた。オレたちのドニーに興味を示したのでにわかドニークルーズを仕立てたのだ。客を満載したマサ丸での島巡りツアーは全員の二泊分を稼いだ。
一度ねぐらのあるマーレー島へ帰ることにした。キャプテンは輪番制だ。今日のキャプテンは私だった。帰路途中で長いリーフに出くわした。見つけた割れ目は波が絡みあっている。前にジニーやスイス人たちが遭難したのはこんなところを突っ切ろうとしてなのだ。私は大迂回を指示した。だれも異論は無かった。もちろん船上ではキャプテンは絶対でその判断に従わなければならない。かなりの遠回りで日が暮れてしまった。マーレー島の灯は見えない。船頭ジャミールの出番だ。星を頼りに方角を定めている。彼がいなければ船上のミイラか海の藻屑の運命が待っているところだ。

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